プログラミング教育が日本でも2020年から必修化されることが決定し、これからの教育を取り巻く環境は「教える側主体」の教育から、「教わる側主体」の教育に変化していくといわれています。そんな中、子どもたちに大人気のゲーム「マインクラフト」を用いた教育が話題になってきました。本連載では、マインクラフトを教材にした教育について考察します。1回目の本稿では、主役である「学び手」にとっての効果を、第2回ではそれを「教える側の視点」でそれぞれ考えていきます。そして3回目には、実際にマインクラフトでプログラミングを学習している生徒と保護者のインタビューを通して、それぞれの視点でお伝えしていきたいと思います。
マインクラフト(Minecraft)とは?
マインクラフトの画面、サトウキビとスイカが育っている
静岡の英語&プログラミングスクール「D-SCHOOL(デジタネ)」の水島と申します。マインクラフトを使ったコースを開発したり、実際に現場でプログラミングを教えたりと、プログラミング教育の普及に全力を注いでいます。「マイクラキング」としてYoutubeにも動画投稿しています。
マインクラフトは2009年にスウェーデンのMOJANG(モヤン)社から発売されたゲームで、ジャンルとしては「サンドボックスゲーム」に位置付けられます。サンドボックス(=砂場)で遊ぶように、特定の目的はなく、ずっと建物をつくっていたり、あるいはつくられた世界を冒険したりなど、遊び方がプレイヤーにゆだねられているゲームのことを指します。中でもマインクラフトは、世界が3Dの四角いブロックだけでできていることが大きな特徴です。
「マインクラフトはなにができるゲームなの?」という質問に対する答えは、子どもたちの方がよく知っているかもしれません。人それぞれで遊び方が違うのが特徴で、例えば冒険好きの子どもなら、「洞窟や廃坑、ネザー(地獄の世界)を冒険して、ドラゴンを倒すんだ」と言うかもしれませんし、ものづくりが得意な子どもなら、「3階建ての大きな家をつくれるよ。秘密の地下室もあるんだ」「あの映画に出てくる街をつくって遊んだよ」と言うかもしれません。正解やゴールがなくさまざま遊び方を提供してくれるマインクラフトは、ゲームというよりはむしろ「遊び道具」に近いのかもしれませんね。
教材としてのマインクラフト
マインクラフトが開発されたスウェーデンでは、マインクラフトを教材として用いて、学校現場で英語や算数を教える試みがなされています。生徒たちがマインクラフトの世界にログインして、村人から出されるクイズに答えたり、「村の北にある洞窟から石炭を取ってきて」などのおつかいをこなしたりします。これが教科学習になっています。
マインクラフトを教材として活用することの一番のメリットは、子どもが「勉強している」とは思わずに学んでいくことです。おつかいを進めていかなければ、マインクラフトは前に進めません。子どもたちはどんどん物語を進めて、ごほうびの強い武器やレアアイテムを手に入れるために、おつかいをこなしていきます。その過程はまるっきりゲームなので、その中に教育要素を埋め込んでいっても、子どもたちは勉強中だということを忘れて、あるいは勉強だとは全く思わずにマインクラフトに熱狂します。ポイントは「マインクラフトで学ぶ」ということなんです。
マインクラフトを教材として学ぶ例は他にもあります。例えば、理科なら「レッドストーン」というアイテムを使って電子回路を学んだり、社会なら自分の住む街をブロックで再現してまちづくりや観光について考えたり、国語や図工ならオリジナルの物語や作品をつくることだってできます。実際に私も訪れたことのあるスウェーデンのヨーテボリ市では、行政がマインクラフトで街を再現してオープンデータとして公開し、「未来のヨーテボリ市がどんな街だったらいいか」をテーマにしたまちづくりのワークショップを、若者向けに実施しています。教材としてのマインクラフトはこの先もさまざまな分野で活躍することでしょう。
ここからは、マインクラフトでプログラミングを学ぶコースを実施している、D-SCHOOL(実際に私も現場に立ち、コース開発もしています)の現場の様子をお伝えしていきます。
マインクラフトでプログラミングを学んでいる子どもは、「好きこそものの上手なれ」の言葉どおり、メキメキと実力を伸ばしていきます。子どもたちが好きなマインクラフトで学ぶことで、先生が教えようとしなくても勝手に学んでいき、「プログラミングして家をつくりたいんだけれど、どうしたらいい?」と、自分から前のめりになって学習するのです。やがて、自分ができる表現がどんどん増えてくると、今度は他の子に見せて驚かせるために、すごいプログラムを自分からつくり始めていきます。
こうした能動的な学習は、言われて学ぶ受動的な学習よりも高い学習効果が得られます。陸上競技選手の為末選手は「努力は夢中に勝てない」といった表現を用いましたが、子どもたちが自分から学びにいくような環境をつくり出すことが教育において重要だと、子どもたちに気づかされますね。一般的にゲームというと、子どもたちの学習を阻害する「悪者」の扱いを受けがちですが、このように教材として活用すれば、むしろマインクラフトやゲームは善にもなるのです。
マインクラフトで試行錯誤を学ぶ
プログラミング教育において重要なことの1つは、苦労してやり遂げることです。新しいことを学んでいくときに失敗するのは当たり前です。にもかかわらず、失敗を教えてくれる機会はあまりありません。そんな中、プログラミングは失敗と挑戦を繰り返して答えに近づいていくもので、「ここを変えたらどうなるだろう」「ここを変えればうまくいくかも」と試しながらプログラムをつくっていきます。さらに、プログラムを自分の力で完成させることができれば、それが成功体験になって、自信につながります。こういったチャレンジする姿勢が養える点も、プログラミング教育必修化のねらいの1つであり、やがてそれが「生きる力」となっていくのです。
冒頭でも触れたように、技術の発展が速く、先が読めない時代において、「正解もゴールもない、遊び方すら自分で考えるゲーム」マインクラフトを使った学習は、現代の教育では非常に効果的であると、私は考えています。マインクラフト×プログラミング教育は、現代の社会で自分が何をして生きていくかを考える訓練にもぴったりですね!
静岡県立大学経営情報学部 卒業
高校教諭 第一種免許状(商業、情報)取得
大学ではプログラミングやマルチメディアを学び、学生時代よりプログラマとしてデジタネ(旧D-SCHOOL)をサポート。プログラミング教育に精通し、高校教諭免許を取得。
マインクラフト歴7年の日本屈指のマイクラユーザー。
マインクラフトユーザー、現役プログラマ、そして教育者の3方向から子どもたちが楽しく学べるコースを開発中。
2019年夏にKADOKAWAより「自分で作ってみんなで遊べる!プログラミング マインクラフトでゲームを作ろう!」を出版。